賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 09
賃上げ取り組み事例

株式会社弘新機工

大型自動車修理、油圧機器修理、中古車・部品販売、レンタカー業務

2023/2/28

誰にも真似のできない、誇りのある仕事を糧に

業務用トラック等の大型車両の整備・修理のほか、荷台のカスタマイズなど、他社では真似のできない仕事を同社の誇りとしている。

company 企業データ
  • ●代表取締役:渡邉 修士
  • ●本社所在地:新潟県新発田市
  • ●従業員数:13人
  • ●設立:1980年
  • ●資本金:1000万円
  • ●事業内容:大型自動車修理、油圧機器修理、中古車・部品販売、レンタカー業務
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価格転嫁による業績改善を契機に、従業員にやりがいと誇りが芽生える

2代目社長である渡邉修士氏が就任した時には、会社の業績が悪化した状態が続いていた。「このままではいけない」。そんな思いから、修士氏はまずは業績を上げるべく、作業効率を上げることとした。その結果、業績は改善したが、効率を上げた分新たな仕事を詰め込んでしまい、以前から常態化していた長時間労働は解決されなかった。長時間労働は、従業員の離職や心身の健康を損なう。そこで修士氏は、業績の改善と長時間労働の是正を同時に解決する手段を考えた。

まず、顧客への価格転嫁に着手した。「価格転嫁で仕事が減ってしまうかもしれない」という思いもあったが、価値のある仕事だという信念を持ち、実行した。結果、他に手がけられる業者がほとんどないという強みもあり、価格転嫁をしても仕事が途絶えることはなく、業績改善につながった。むしろ、高い技術に裏打ちされたきめ細かな対応から、顧客から高い評価を得ることにもつながった。顧客からの高い評価は、従業員に仕事に対するやりがいと誇りを芽生えさせた。

2018年4月に22%の賃上げを実施

自信を持った従業員の生産性向上は目覚ましいものがあった。生産性向上により徐々に改善される長時間労働をさらに改善すべく、修士氏は、月次決算が黒字であれば時間外労働時間が30時間に満たなくても次月に30時間分の時間外労働の割増賃金額を支給する「弘新みなし残業制度」を導入した。この制度が始まってから、従業員は自らスケジュールを立てるなど、主体的に黒字達成と時間外労働ゼロを目指すようになった。
これらの顧客への価格転嫁、みなし残業で業務改善・効率化を進めた結果、業績は向上し、2018年4月に22%の賃上げを実施することができた。また、2019年の離職者はゼロとなったという。

賃上げに向けた作業効率化のための取り組み

株式会社弘新機工の取り組みはこれだけにとどまらない。同社は、昇給と賞与の基準として独自の「標準作業時間」を設け、そのデータを従業員と共有している。一つの仕事に対する目安時間と実際にかけた時間がひと目で分かるもので、従業員にとって効率アップへの踏み台としてだけでなく賃上げへの励みにもなっている。
また、無駄やロスの削減にも積極的に取り組んでいる。部品の検索、発注、さまざまな情報の共有化のために全従業員にタブレット端末を支給したほか、スムーズに連絡を取り合えるようインカムを採用するなどICT化にも取り組んだ。

失敗から学ぶ業務改善、そしてチャレンジする社風へ

賃上げを行うために必要な業務改善。会社が従業員に与えられる業務改善には限界があるのではないだろうか。しかし同社には、従業員自らが業務改善のきっかけを見つけ出せる「失敗報告書」というツールがある。
これは、失敗した従業員は1回につき100円が支給され、月に一度従業員同士の投票で決まるナンバーワンには3000円。年間の「大賞」には50000円が支給されるというものだ。失敗は本来隠したいものだが、失敗の公開にインセンティブを与えることで、失敗が隠されることを防ぐとともに、業務の改善・従業員の成長に繋げるという発想だ。
そして、「失敗報告書」がもたらしたものは、従業員の成長のきっかけだけではなかった。失敗への抵抗感が薄れ、新たな仕事にチャレンジする社風も築かれていったそうだ。

賃上げの好循環、そして恒常的な賃上げへ

同社の信条は「誇りと創造」。これまでに作業効率アップや労働現場の環境整備のためのさまざまな取り組みに触れてきたが、その根底には、従業員をはじめ、同社に関わる全員が「自分たちの仕事が他には真似のできないものだ」というプライドがあるからこそ、これらの取り組みが功を奏したのだろうと思う。2019年の「働き方改革推進シンポジウム」への参加も、プライドを持つ一つのきっかけだった。参加後、あらためて同社の仕事を見つめ直した。荷台のカスタマイズ、油圧装置の取り付け・メンテナンス、どれをとっても他社では真似のできないものだということに気が付いた。この自信が、価格転嫁や作業効率化へつながり、業績を向上させ、賃上げにつながるという好循環の源となった。
同社はこの賃上げのための好循環を続けながら、新規事業などの開拓を進め、収益を還元することで恒常的な賃金アップを目指す。